2013年4月10日水曜日

「ここで頑張ればどこでも頑張れる」は間違い

4月となり、フレッシュな新入社員の姿を街で見かけることが多くなった。彼らを見かけて、頑張って欲しいと思うと同時に、ブラック企業などに間違って入ってしまった人がいたら、急いで逃げてほしい、と切に願う自分がいる。

ブラック企業に勤めていたことがある。

不動産の飛込営業という典型的なブラック業界で、まず人間関係が悪かった。5歳上の上司は猛烈営業マンで、もしも部下が気に食わなかったら暴力も辞さないという男。同僚にはボクサー崩れや元チーマーなどがいて、彼らの会話のほとんどはパチンコやスロット、そして風俗だった。

仕事もきつかった。朝は7時半には出社して事務所を掃除しなくてはならない。夜の20時まで営業回り、帰社したらその日に名刺交換した相手などにメールや礼状を書き、最後に日報を書いて帰宅する。終電で帰る毎日で、週休は一日。請負制のため、保険の類に一切入っていなかった。

他の課の課長が日報をまとめている我々に、時々、
「がんばってるな」
と声をかけてくれた。そして、
「ここで頑張れる人間は、どんな環境でだってやっていけるよ」
と、いつか辞めることを前提とした励ましの言葉を、よくかけてくれた。

実際、人の入れ替わりが激しかった。私も、
「ここは俺のいる場所じゃない」
と思い4ヶ月で辞めた。辞める際には2時間罵倒され続け、最後の給料をもらえないまま。幼かったその時は、とりあえず辞められたことでホッとし、給料を取り返すことを考えられなかった。

いつの間にやら連絡も途絶えた元同僚に、先日ふと思い立って連絡をとった。3年後にその職場を辞めた後、今では広告の折込営業をしているそうだ。売り上げが上がらず毎日つらい日々だ、という話を聞く。

当時の同僚だった人々の後日談を聞いた。彼らは勤続年数が長ければ長いほど、その後、よりひどい生活を送っていた。

確信を持ったことがある。
「ここで耐えられれば、他のどんな仕事でも耐えられる」
ということを様々な場所で聞くが、あれは嘘だ。

逆に、ブラック企業にいる時間が長ければ長いほど、非効率的で非人間的なやり方が身に染みつく。能力を伸ばす機会に恵まれず、一番能力の伸びる若い時期をあたら無駄にすることになる。それどころか、人格まで歪む。

いい例がワタミフーズ社長の渡邊美樹氏だ。一時期起業家の教祖としてもてはやされていたけれども、彼の非人間的な性格はよく知られている。道徳を口にしながらブラック企業を作り上げ、人間をないがしろにして恥じないあの畜生ぶりは、異常である。

彼がことあるごとに自慢をする、佐川急便勤務時代の激務。
「あの経験があったからこそ、その後どんなことだって耐えられた」
と語るが、むしろブラック企業で働いたがために、不可塑的な癖がつき、人格が歪んでしまったのだろう。

どんなに残業が続こうと、顧客に怒鳴られようと、仕事自体が難しく高度だろうと、従業員のことを気遣う職場では、従業員の疲労をねぎらい、気持よく働けるように、様々な取り組みが行われている。
「つらい」
と感じるよりも、
「楽しい」
「充実している」
と誰もが感じるようになっている。たとえばどのような職場にもある人間関係の悪化も、優良企業では早めに周囲がフォローをし、同僚が潰れるのを防ぐ仕組みを整えている。それは、大手企業で働いたときに、私自身、痛感した。

時々優良企業と呼ばれる企業でパワハラが明らかになることもあるものの、ブラック企業のパワハラの発生率に比べれば、なにほどのことがあろう。

健康に例えれば分かりやすいかもしれない。若い頃に夜更かしをし、飲酒にふけり、ジャンクフードのようなものばかりをとっている少年に、
「こんな不健康な生活に耐えているのだから、耐久力がついているはず。将来病気にかかることはない」
とその生活を続けさせるだろうか? 免疫系は、健康な生活を継続していくことで強化されるものであり、不健康な生活を続けても免疫力はアップしない。

仕事自体が自分にとって無価値であり、そのためにやり甲斐を持てずに毎日つらいと感じることはあるだろう。しかし、職場の人間関係だとか、上司の無理解だとか、限度を超えた就業時間だとか、外的要因で苦痛を感じるのだとしたら、その職場でいくら耐えても意味はないどころか、人生を棒に振る。

そこにいることは努力ではなく、単なる「不健康な生活」でしかない。そのような職場からは、早く離れるが吉、である。


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