★ 空自幹部 線路に男性投げ落とした疑い
航空自衛隊の幹部自衛官が29日夜遅く、東京のJR大久保駅で酒を飲んで帰宅途中に肩がぶつかったと声をかけてきた会社員の男性を、ホームから線路に投げ落としたとして、殺人未遂の疑いで警視庁に逮捕されました。この話を聞いて、蓋をしていた嫌な記憶を思い出した。昨年末、海上自衛隊の男(自称)にケンカをふっかけられたことが私にはある。
逮捕されたのは、防衛省航空幕僚監部の3等空佐、鶴田義明容疑者(39)で、(中略)大久保駅のホームですれ違った際に肩がぶつかったと声をかけてきた44歳の会社員の男性に対し、「殺してやる」などと言って胸ぐらをつかみ、線路に投げ落としたとして、殺人未遂の疑いが持たれています。
昨年12月の半ば、待ち合わせをしていた彼女と落ちあい、新宿マルイを通りすぎて新宿三丁目の交差点で信号待ちをしていたときのこと。
彼女が私に、
「あの人達、危ないね」
と声をかけた。
たしかに危ない。クルマが通行中の片側2車線の道路の中央寄り車線上に、そのカップルはしっかりと抱き合って夢中になってキスをしている。それに気づいたクルマは徐行しつつ、動こうとしない障害物を避けて、横の車線に移る。クラクションを鳴らさないのは、からまれるのを恐れてか。
(ああ、酒に酔ったバカ外国人だ)
と私は思った。女性は金髪の完全な白人で、男性も190cmほどある。六本木などでよく見るシーンで、酒に酔った外国人が酔って道路に飛び出ることがある。そういうときに私はよく、危なくないように彼らを歩道へと引き寄せる。
そのときも何の気なしに道路に駆け寄り、彼らの手首を掴んで、
「ここ危ないよ。赤になっているよ」
と言いながら歩道へと連れて行った。渋滞しかけていたクルマが動き出す。そのとき私は、男が20代の日本人で、酔っていないことに気づいた。
それからすぐに信号が青になったので、なんとなく不穏な雰囲気を感じながらその場を立ち去ろうとしたところ、男が追いかけてきて私の肩をつかむのである。
「おい、コラ。なに人の女に触ってんだよ」
そして私をつきとばした。
ふいをつかれて少々よろけた。私の彼女が、
「ちょっと、何してんですか!」
と声を上げたので、私は彼女に、
「この場から離れてもらえる?」
とお願いした。彼女にはこういう場合、その場から逃げるよう、日頃からお願いしている。彼女はすぐに走ってその場を去ってくれたので、安心して男に向き合った。
彼はGIカットと言われる髪型で、筋肉質で体格がいい。横にいる女性は白人だが、流暢な日本語で、
「ちょっと、やめようよ」
と彼氏を止めようとしているから、少しはまともなんだろう。完全な金髪だったから北欧人かとおもっていたが、顔を見るとスラブ系のようにも見える。ロシアンパブかどこかで2人は知り合ったのかね。
「危ないから引っ張っただけでしょ」
と言って私はその場を離れようとした。
「てめえ、なに逃げてんの? いかせねぇから」
と言ってその男、私の前にたちふさがり前をふさぐ。なおも進もうとする私の胸ぐらをつかもうとする。その両手首をとりあえず、合気道で言う両手取りの要領で、つかんだ。
つかんでみて分かったのは、この男は格闘技経験がなさそうだ、ということだ。普通、手首をここまで握られたら、なんとかして振り払おうとしたり、ローキックをしようとしたりするだろうが、それをしない。ああ、それならこいつ、いざとなれば投げられるな、と目算を立てて一安心した。
格闘技を習っていた人ならば同意してくれるだろうが、素人と経験者はまったく異なる。ある程度のガタイある相手であろうと、何年間かマジメに格闘技をやっている人間ならば、いなすことはそれほど難しくない。
ただ、こちらから手を出せば、その時点で加害者だ。それよりも、被害者となった方が、文明社会では勝者となる。
今回の場合、最初に交通法規に違反した行動を取っていたのは相手で、それを注意した私を逆恨みしたという構図だ。私が被害者になれば、裁判で完全に勝てると思いながらも、そこから一歩、踏み出す勇気がなかった。
今抑えている手首を離して、こいつに殴らせればいい、と思う。だが、クリーンヒットして私が路上に転倒するかもしれない。その上からこの男に乗られたらヤバイことになる。やっぱり、190cmのガタイは脅威だ。上から乗られたら、容易に返せない。
しかも今は彼女がいる。もしかして近くで見ているかもしれない。倒れた私に驚いて、万が一にでも助けに入られ、彼女が殴られでもしたらと思うと、被害者となってあえて自分を殴らせる作戦に出ることがどうしても出来ない。
お互いににらみあっていると、相手の男が妙なことを言う。
「おい、てめぇ、誰に向かってケンカ売ってんだ? 俺は海上自衛官だぞ」
道理でGIカットか。身体もゴツイから、鍛えているのは分かる。
「公務員なら法律違反するなよバカ」
とは、私は言わなかった。彼女のことを考えて、下手に、下手に出ることにした。
「そうですか。それは凄いですね」
「てめぇ、なめてんじゃねぇよ。国のために働いている俺に対して、何のマネだ? この野郎」
「だったら、警察につかまるようなマネしちゃダメでしょ。俺を殴ったら、警察行きですよ」
「は? 警察なんて地方公務員だろ。俺は国家公務員だぞ、お前バカだろ」
私は、この言葉に一瞬衝撃を受けた。というのも、無知なことに自衛隊が国家公務員で警察が地方公務員という区分となっていることを知らなかったから。この男の言葉を聞いて帰宅してネットで調べて改めて認識した。
バカだと思っていた相手が自分の知らない一般常識を語ったことに、私は少し狼狽してしまった。
また、同じ公務員としてお互いにリスペクトしているんだろうな、となんとなく考えていたので、こうあからさまに、自衛隊員を名乗る男が警察をバカにするセリフを吐くとは考えていなかったのだ。
本来ならば、
「あんた、本当に自衛隊なの? 部隊名は?」
などと聞き出せば、翌日自衛隊に電話をしてこの男の上官にでも文句を言ってやれたのだろうが、そこまで頭が回らない。思いがけない言葉を反芻するので手一杯となった。
また、同じ公務員としてお互いにリスペクトしているんだろうな、となんとなく考えていたので、こうあからさまに、自衛隊員を名乗る男が警察をバカにするセリフを吐くとは考えていなかったのだ。
本来ならば、
「あんた、本当に自衛隊なの? 部隊名は?」
などと聞き出せば、翌日自衛隊に電話をしてこの男の上官にでも文句を言ってやれたのだろうが、そこまで頭が回らない。思いがけない言葉を反芻するので手一杯となった。
(公務員て、地方公務員と国家公務員の2区分だったっけ? キャリアとノンキャリアの区別とはまた違ったっけ?)
なおも繰り出す男の罵声を聞きながら、そんなことをボンヤリと考えていると、男の力が急にすっと抜けた。
「いいよ、てめぇとケンカしてもつまらないから、手を離せよ」
と言うので、私も恐る恐る手を離す。男は白人の彼女と共に、その場を去る。後ろを振り返ると、警察がやってきたのが見えた。奴はそれを見て逃げることにしたのだろう。警察の横をすり抜けて、そのカップルは新宿一丁目方向へと去っていく。
警察が来たんだからお灸をすえてもらわないと。ここで逃しちゃダメだと思って、男を追いかけてその腕をつかんだ。
「おい、何逃げてんの?」
「は? 手を離せよてめせ!」
そこに警官がやってきて、私たち2人を引き離した。
交差点には交番があった。その近くで言い争っていたから我々にすぐに気づいたのだろうと思ったが、そうではなく彼女が警官を連れてきてくれたのだった。
警官がうまいと思ったのは、争う2人を引き離すために、海上自衛隊の男を、道路を渡らせて、向こう側の歩道へと連れて行ったことだ。離れた場所の2人にそれぞれに尋問をする。こうすれば、お互いの言い分が聞こえずに済む。
「なに嘘言ってんだよ。この野郎!」
などと言い合いになり、ふたたびケンカになることもない。
こちらはケンカをするつもりはなかったので、冷静に話をする。警官は海上自衛隊の男がからんだと認識してくれているようで、私には、
「大変でしたね」
と言い、簡単に事情聴取をした後、すぐに解放してくれた。自衛隊の男も、警官と談笑していたのが遠目で見て取れたので、特にお咎めもなくその場を離れたのだろう。
……ということが、昨年あった。
ブログに書こうと思いつつも、思い出すと腹が立つために書かないまま、いつの間にか忘れてしまっていた。嫌なことで、今さらどうしようもないことは、忘れるしかない。しかし、思い出せば怒りがふつふつと湧き上がる。
今でも腹が立つのは、理不尽なことをしてきた男に対して、何ら社会的制裁を加えられなかったからだろう。あの場で、
「この男を訴えたいから相手の名前と連絡先を教えて欲しい」
と警察官に訴え、強情をはればよかったのだ。名前や所属先が分かれば、あとで職場に怒鳴り込んだり何かができたかもしれない。
それまで自衛隊の悪いうわさを聞いても他人ごとのように思い、むしろ災害時に活躍する彼らを応援してきたのだが、これ以来、自衛隊隊員に対して、やや斜に構えるようになった。
自衛隊隊員が白眼視されていた時代は今や昔、彼らは自衛隊であることにプライドを持つと同時に、やや傲慢となってきているのかもしれない。冒頭の事件も、彼らの心の緩みの現れかもしれないと、今は思う。
なおも繰り出す男の罵声を聞きながら、そんなことをボンヤリと考えていると、男の力が急にすっと抜けた。
「いいよ、てめぇとケンカしてもつまらないから、手を離せよ」
と言うので、私も恐る恐る手を離す。男は白人の彼女と共に、その場を去る。後ろを振り返ると、警察がやってきたのが見えた。奴はそれを見て逃げることにしたのだろう。警察の横をすり抜けて、そのカップルは新宿一丁目方向へと去っていく。
警察が来たんだからお灸をすえてもらわないと。ここで逃しちゃダメだと思って、男を追いかけてその腕をつかんだ。
「おい、何逃げてんの?」
「は? 手を離せよてめせ!」
そこに警官がやってきて、私たち2人を引き離した。
交差点には交番があった。その近くで言い争っていたから我々にすぐに気づいたのだろうと思ったが、そうではなく彼女が警官を連れてきてくれたのだった。
警官がうまいと思ったのは、争う2人を引き離すために、海上自衛隊の男を、道路を渡らせて、向こう側の歩道へと連れて行ったことだ。離れた場所の2人にそれぞれに尋問をする。こうすれば、お互いの言い分が聞こえずに済む。
「なに嘘言ってんだよ。この野郎!」
などと言い合いになり、ふたたびケンカになることもない。
こちらはケンカをするつもりはなかったので、冷静に話をする。警官は海上自衛隊の男がからんだと認識してくれているようで、私には、
「大変でしたね」
と言い、簡単に事情聴取をした後、すぐに解放してくれた。自衛隊の男も、警官と談笑していたのが遠目で見て取れたので、特にお咎めもなくその場を離れたのだろう。
……ということが、昨年あった。
ブログに書こうと思いつつも、思い出すと腹が立つために書かないまま、いつの間にか忘れてしまっていた。嫌なことで、今さらどうしようもないことは、忘れるしかない。しかし、思い出せば怒りがふつふつと湧き上がる。
今でも腹が立つのは、理不尽なことをしてきた男に対して、何ら社会的制裁を加えられなかったからだろう。あの場で、
「この男を訴えたいから相手の名前と連絡先を教えて欲しい」
と警察官に訴え、強情をはればよかったのだ。名前や所属先が分かれば、あとで職場に怒鳴り込んだり何かができたかもしれない。
それまで自衛隊の悪いうわさを聞いても他人ごとのように思い、むしろ災害時に活躍する彼らを応援してきたのだが、これ以来、自衛隊隊員に対して、やや斜に構えるようになった。
自衛隊隊員が白眼視されていた時代は今や昔、彼らは自衛隊であることにプライドを持つと同時に、やや傲慢となってきているのかもしれない。冒頭の事件も、彼らの心の緩みの現れかもしれないと、今は思う。