2014年7月19日土曜日

巨額詐欺事件で有名な、元KKC(経済革命倶楽部)の山本一郎に会ってきた 下

前日の続き)

名前を名乗り、事務所に入る。

いきなり山本一郎氏、ご本人と対面。気さくな人柄。刑務所に8年も入っていたとは思えない、くったくのない笑顔が印象的だ。

いかつい顔つきの男性スタッフが数名。その数倍の、女性スタッフがいた。みなさん、かなりの年配だった。

知人から勧められてこの会のことを知った(本当はネットで観ただけだが)と話したところ、まずはこの会の歴史から学んで欲しい、と言われて観せられたのが、かつてKKC(経済革命倶楽部)が進めていた、地球規模の事業について学ぶ動画だった。

KKCの経済戦略が、いかに素晴らしく、また、世界中の貧困をなくすためにどのような活動に取り組んでいたのかがよくわかった。動画を観る限り、素晴らしい団体だ。世界各地に学校を作り、貧しい人々に仕事を与え、社会貢献を第一に考える団体だという。

どうやら、20年前、逮捕の直前に広告代理店に命じて作らせたPRビデオらしい。カネがかかっているのがよくわかる。

そのあと、山本一郎氏直々の現在の事業の概要説明を拝聴する。

新事業の仕組み

仕組みはとても単純だ。

まず、下記が配布されたチラシだ(ポケットに入れてしまったせいで、シワができているのはご勘弁を)。
「競球事業」への投資を名目にして、1口10万円を山本氏に融資する。

それから、知人にこの事業への融資を勧める。知人が融資すれば、紹介料として5万円が入る。そのさらに知人が紹介をすれば、5万円が知人へ、3万円が自分に入る。山本氏には、2万円のみが融資されるのだそうだ。
(チラシの「本の印税を利益償還させていただきます」という文言にはバカバカしいから、敢えて触れなかった)

ただ、山本氏はさすがに抜け目なかった。そこからさらに新しい階層ができても、知人の知人より先からは、紹介料がもらえない。これにより、無限連鎖講(ネズミ講)を防止する法律の適用を免れると、山本氏は主張する。

(なるほど。反省はされているようだが、これでは儲からないだろう)
と思ったが、山本氏の話は、ここからが本番だった。

「こんなことしていても儲からない。もっといい方法がある。それは「競球事業先払いコース」に投資することだ」

この先払いコースとは、どういうものか。

「20万円をこのコースに投資する。10ヶ月以内に、50万円が確実にあなたのものになる」

その仕組を示したのが、下のチラシ。
(考え過ぎかもしれないが、「◯月度」の◯の部分や短期コースの配当金の部分を黒塗りとした。チラシには、参加日時とまったく異なる月が記載されていたし、数回に分けて支払われる配当金の組み合わせは、妙にランダムだった。これらの数字によって、顧客監視をしている可能性がある)

20万円を融資すると、毎月5万円ずつ、10ヶ月に渡って支払われることが示されている。

支払われるのはいいが、その原資はいったい何か?

……新しい融資者が支払う20万円だという。

そんな馬鹿な。自転車操業じゃないか。破綻しないのか?

「破綻するわけないじゃないか。現在、何百人という人が噂を聞きつけて、この事務所に日参している。その人々のカネを、前の人に渡すだけ。そうやって、順送りにしていけば、決して破綻することはない」





頭がクラクラとしてきた。融資者が増えることを前提に組み立てられた粗雑な集金システム。こんなシステムで、よくも7年もの間生き残り続けてきたもんだ。

「でも、どういう名目でその50万円は支払われるのでしょうか? ネズミ講を防止する法律にひっかかるのではないでしょうか?」

法律違反の不備を誰かが突いた。すると山本翁は、こう言ってのけた。

「なるわけないでしょ。私が支払うのは、紹介料ではなくて、利子なんだから」

紹介料ではなく利子

「利子……」
「そう。あなた方が私に融資する。それに私が高い利子を支払う。それだけでしょ」

別の女性が、それに反論する。
「でも、高利でお金を貸すことは、貸金業法で禁止されているんじゃないでしょうか?」
山本氏は手を振った。

「なるわけないでしょ。貸金業法が守るのは、カネを借りた方。私ですよ。私が『いいんだ、俺が利子を支払うよ』って言っている以上、警察はどうしようもないよ」

いやいや。もしも山本氏が心変わりして、我々を、
「法定利息を越えた暴利を貪ろうとしている」
と訴えたら、どうなるだろう? いつ彼が豹変するか分かりやしない。これに融資する人は、山本氏に首根っこをつかまれるのに等しいじゃないか。


私の心配をよそに、他の参加者は納得顔だ。隣の女性はセミナーが終わるとやおら立ち上がり、この説明会には2度めの参加だと言いながら、カバンから数百万円の札束を取り出して、山本氏に渡して契約書を書き始めている。なごやかな雰囲気が信じられない。

事務員に契約手続きをまかせて、今回は投資をしない人々相手に、山本氏の独演会が始まった。

「それしても腹が立つのは、俺を追い詰めた宇都宮弁護士だ。あいつはなんの罪のない俺を、新しい罪をこしらえて牢屋へ入れた。おかしいじゃないかと、俺は彼に1日に何度も電話をしている。でも、絶対に出ない。居留守を使っている。俺はゆるさないよ」

……弁護士も因果な商売だ。かつて告発した人々を相手にしながら、毎日商売をしなければならないのだから。私は前の都知事選では彼に投票しなかったし彼の政治主張に共感していなかったが、初めて宇都宮弁護士を心から応援したいという気持ちになった。

山本氏は、さらに、ロッカーにしまった何百という通帳を見せてくれた。これが、すべて会員の通帳であり、それに山本氏が入金しているそうだ。

なぜ通帳を本人ではなく山本氏が持っているのか。解せぬ。まったく解せぬ。

ここまでわかれば、これ以上あまり深く突っ込んでもしょうがないので、その場をすぐに去った。

ビルを見上げる。
美しい、きれいな建物。あの喧騒が、まるで嘘のようだった。

彼らは信念をもっていた

この記事では、彼らの事業の可否判断をおこなうつもりはない。以前、多くの人を騙してきた人物の人となりについて述べることが目的だ。

写真から受け取る、ちょび髭の怪しげなオヤジ、というイメージは、実物に会って払拭された。威圧的でもなく、むしろ優しげな表情である。

周囲に細かく気を配る(風邪引いていないか? などと知り合いに声をかけていた)心遣いにもあふれている。

他人をだまそうとするのではなく、自分がこの事業を心から信じていて、楽しんでいるといった風情であった。

事務所にいた人々とも話をしたが、誰もが、山本氏がかつて逮捕されたことについて、まったく納得していないのである。ネズミ講の残党などというのは彼らに対して失礼だ。彼らはこれまでも、正しいことをしていると思ってKKCなどの活動に関わってきたし、これからも正しいことをしていると信じて競球事業に携わっていくのだろう。

(ちなみに「競球」とは、直径数メートルの巨大な玉を、巨大なパチンコ台の上から落として、丁半の穴のどれに入るかを賭けるという博打であり、現在関係各所に新しい賭博を認めてもらうために活動中、らしい)

思えばこのところ世間を騒がせている人々は、みな、何かしらの信念にもとづいて罪を犯しているように思える。

典型的なところでは片山祐輔被告だ。PC遠隔操作は、
「自分を認めない社会をかき回すことは正しい」
という信念に基づいて行われた結果、嘘をついていても堂々とした受け答えで世間を煙に巻くことに成功した。

信念をもっておこなう人間から、悪を嗅ぎ取ることはできない。彼らにあるのは、情熱だけだ。

犯罪であることを知りながら他人を騙そうとする場合、本人が信じていないからバカにされてもくじけない、情熱など生まれてこない。バカにされないように虚勢を張り、強要、脅迫などを行うのが関の山なのである。

信念を持つ人は違う。犯罪などとはつゆほどにも思わず、社会を幸せにするためだと信じて、周囲を説得する人には、威嚇は必要ないのだ。

かつて世間を騒がせた元詐欺師は、決して巷間言われているような極悪人ではなかった。魅力と信念にあふれた人物だった。むしろ社会改革の信念にあふれているからこそ、多少の逸脱もやむをえまいと考えているフシがある。

人格で人間を判断しがちな人は、要注意だろう。直感も大切だが、定量的なデータ、合法性などによる客観的な判断が必要だし、それが出来ない人は、ひとりよがりにならないよう、友人の意見も取り入れた上で、判断せねばならない。

むしろ、まともな人間は、人格なんかで他人を判断できない、という諦めがあるからこそ、客観的にものごとを判断しようと心がけているし、他人の判断も謙虚に仰ぐことができる。

それが出来ない人間、人間性を見れば他人を判断できると豪語する人間は、信念を持つ逸脱者と出会ったときに、ダマされて泣くハメになるのだろう。


3 件のコメント:

  1. もし、コメントが重なっていましたらお許しください。
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    はじめまして。
    「あぐら物語日記」のrokoと申します。
    誠に勝手ながら、こちらの記事を当ブログにて紹介させていただきました。
    不都合な点がございましたら、お知らせいただけると助かります。

    この度は、とても貴重な記事をありがとうございました。
    ご自愛ください。


    被害総額30億円 KKC山本一郎の言い訳と持論(デイリー新潮 2016年8月30日)
    http://roko1107.blog.fc2.com/blog-entry-3622.html

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    1. 記事をご紹介いただき、どうもありがとうございます。更新していないブログに、こうしてお越し頂く方がいるのがとても嬉しいです!

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  2. >隣の女性はセミナーが終わるとやおら立ち上がり、この説明会には2度めの参加だと言いながら、カバンから数百万円の札束を取り出して

    サクラじゃないですかね~。

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