2014年2月6日木曜日

ゴーストライターの誠

「佐村河内守の作品はすべて自分が作曲した」「彼が聾者だというのも嘘」
衝撃の告白が、ゴーストライター本人によってなされました。

記者会見の一問一答が書き起こされた記事を読みまして、私は途中から涙があふれるのを禁じえませんでした。

★ 「佐村河内守氏の耳は聴こえていた」新垣隆氏が会見

ゴーストライターが楽曲を有名音楽家に提供するという形式はよくあることでしょうが、提供した相手が障害者であるが故に人気者となっているとなると、問題は別。道義的にアウトです。

彼の行動を「売名行為」と指摘する人も多いようですが、的外れもいいところです。弱者を装って商売をするのは、社会的に許されません。まっとうな人間としてはみなされません。新垣氏は、社会から抹殺されることになるでしょう。

桐朋学園大学といえば、小澤征爾を排出した由緒ある大学です。このまま講師織を続けられるとも、思えません。社会的にある程度認められた地位から、新垣氏は引きずり降ろされることになるでしょう。この年では、再就職もままなりますまい。

それを分かっていながら、敢えて今回の告白にいたったのは、止むに止まれぬ思いがあったからでしょう。記者の質問に、どれにも真摯に応える彼の姿勢に嘘を感じませんでした。根がマジメな人間なのでしょう。その彼の思いを想像するとき、涙があふれざるを得ないのです。

彼が告白することを決意したのは、フィギアスケートの高橋大輔選手が、偽りの曲で演技することへの忌避感があったからだそうです。そこに嘘はないのではないか、と思います。

「ゴーストライターだったら真実を墓まで持っていけ」
と書いている人もいましたが、ゴーストライターだからこそ、最低限、譲れないラインはあるでしょう。新垣氏にとって、それは同じ表現者、クリエイターを裏切ってはならない、ということだったのではないでしょうか。だから、高橋大輔というもう一人のクリエイターに誠実でありたいと思ったのでしょう。

クリエイターではない佐村河内氏は、その思いに共感することができませんでしたが。

また、上記の会見が面白いのは、新垣氏が語らない、今回の告白に至ったもう一つの理由が、ライターの神山氏の補足により、おぼろげながら浮かび上がっているところです。

神山氏は、義手のバイオリニストの「みっくん」の父のコメントを紹介しています。
娘は佐村河内氏から格別の厚遇を受け、すばらしい曲を献呈いただいたり、コンサートに出演させていただくなど様々な恩恵をさずかりましたので、そのことについては、大変感謝しております。たた、ここ一年ほどは、絶対服従を前提に徐々に従い難い要求を出されるようになり、昨年11月に、『服従できぬ』と回答しましたところ大いに怒りをかい、絶縁された状態になっておりました。
みっくん……大久保美来さんの両親に出された従い難い要求とは、莫大な謝礼金だと言われています。

売れるためならば、聾者のふりもできる、公的機関も騙せる、大勢の視聴者の前で堂々と嘘をつける……佐村河内という人物、相当肝の座った詐欺師です。彼のような詐欺師には共通の特徴があります。高圧的で、粘着質で、裏切り者を決して許さず、支配欲が強いという性格です。

こんな人物が、音楽業界に大きな影響力を持っていれば、みっくんの今後の音楽活動に大きな支障となったことでしょう。

「未来ある子供のためにも、それだけは避けねばならない」
神山氏の説得が、学校の教員である新垣氏にとっては随分こたえ、その結果、今回の告発にいたったのではないだろうか……と想像します。

新垣氏の告発のお陰で、高橋選手のオリンピックの演技には、これまで以上の注目が集まっています。単純に美しいと思える調べではなく、様々な男たちが関わったいわくつきの音楽を、高橋氏がどのように咀嚼し、それを五輪の舞台でどう表現するのかが、問われているからです。

今回の騒動は、日本人の美徳である「誠」に殉じたものであり、結果的に良いものだと思います。偽りの上に気づかれた虚構の楼閣ではなく、見かけは悪いが真実の上に気づかれた堅牢なものを私達は求めています。高橋氏の演技が、そのような確かな作品へと、これから昇華していくことでしょう。

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