2013年8月4日日曜日

中国の宴席

中国人の宴席に呼ばれた日本人が大変な目にあった、という話をよく聞く。あちらでは、アルコール度数の高い酒をお互いに飲み干すことが一種のマナーだそうだ。相手に酒を勧められたら、必ず受けなければならない。相手に注がれた酒を飲まないと、相手を侮蔑することになるという。

「これが中国の方法だ」
などと声高に話す人がいるが、それを聞きながら、そうではなかろうと思っていた。あれはそもそも、百姓のマナーが一般化したものだろうと。

「礼記」という、教養人が守るべきマナーを列記した書物がある。そこには、酒は節度を守って飲まねばならぬと書かれ、飲むべき分量も定められている。二千年近くの間、「礼記」を聖典とする儒教が国家の中心的な思想であったから、当然教養ある人々は、酒を他人に無理強いすることはなかったろう。

明代に中国を訪れた西洋人は、中国人の上流階級の人々が酒を飲み干したりせず、小さな器でチビリチビリと飲む様子を記録している。

★ http://e-lib.lib.musashi.ac.jp/2006/Elib/H35-2/001/003.html

ところが、中国共産党が第二次世界大戦後、政権を執った。彼らは「批林批孔」などと唱えて儒教に批判を加えた。

彼らの出身母胎は農民や労働者たちだ。肉体労働者は、日常の過酷な労働を忘れるために、酒を浴びるように飲む。ストレス解消のために、お互い意識がなくなるまでとことん飲み合う。

へぺれけになって、普段言えないような不満をお互いに言い合えば、醒めた後でも、相手へのストレスが解消される。翌日からの人間関係もスムーズにいくようになる。それが酒の効用だ。

共産党が政権を取り、王朝の風俗を徹底的に破壊して、今の中華人民共和国が誕生した。結果、労働者や農民たちのマナーが一般的となったのだ。

中国式のやり方だからといって、何も数千年の歴史が込められているものばかりではない。ここ数十年の風習を伝統だと勘違いしてはいけない。

それに加え、このところ、強い酒を飲ませ合う宴席が中国の若手IT経営者などはからは敬遠されているというニュースも報じられている。


中国が豊かになり(少し斜陽化しているが)、初代の金持ちの次代に当たる人々が、社会の中心となりつつある。彼らは酒を飲まなくとも、ストレスを感じない。他にたくさんの楽しみがあるからだ。彼らにとって、無理強いされることほど嫌なことはない。彼らが次の中国の経営を担っている、中国名物の酒の強要は、いずれ消えていくのではないか。

こういった動きは、中国を体験した人々が「中国の常識はこうだ」と振りかざす体験談が当てにならないという証左でもある。たかだか宴席の雰囲気ですら、100年前と大きく変わり、ここ10年でさらに変化する。これからだってさらに変化するだろう。

そして、日本人もまた、大きく変わっているのだろうし、それが他国にはなかなか理解してもらえない、ということもあるのだろう。

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