2013年6月18日火曜日

歴史の反省が世界の潮流? 従軍慰安婦問題とケニア独立戦争賠償

先週末の話だが、イギリスがケニアの独立戦争で行なった拷問などの人権侵害を反省し、30億円の賠償金を支払うことを決定したという。
ヘイグ英外相は6日、英植民地時代のケニアであった拷問などの人権侵害への補償として計1990万ポンド(約30億円)を支払うと発表した。(中略)人権侵害は、英統治下のケニアで「マウマウ団の乱」と呼ばれる独立闘争が行われた1952~61年に起きた。独立闘争では数千人のマウマウ団の兵士が死亡。民間人を含む多くのケニア人が身柄を拘束された。
英、ケニア独立闘争の拷問被害者らに30億円支払いへ
従軍慰安婦問題を抱えている日本にとっては他人ごとではない判決だ。宗主国が旧植民地で起こした残虐行為を、現代の価値観で反省し、謝罪し、賠償金を支払うというのだから。

先日このブログで、「『ガラパゴス化』する慰安婦論争 ―― なぜに日本の議論は受入れられないか」という記事を紹介した。その際に、
先進国間で進められているのは過去の事象を現在の価値観でどうとらえていくか、という洗い出し
だと私は書いたが、歴史上、特に近代史以降の諸問題に現代の価値観で正邪をつけていくことは、確かに世界の潮流らしい。

この背景を探ると、イギリス人が賠償を決定するまでに、様々な葛藤があること、独立運動を戦う人々の間で深刻な内輪もめがあったようだ。

★ 英軍と闘ったゲリラ・元マウマウ団兵士

イギリスが、10万人もの犠牲者を残らず救済していくつもりなのか、それとも約5000人相手の賠償でなんとか幕を下ろそうとしているのか、それが可能なのか、といった点で、日本にとっては参考になる点が多々あるだろう。これからの動向に注意していく必要がある。

また、日本は現代の価値観、特に基本的人権の尊重という概念から、近現代史を捉え直していくことが必要な時期へ来ているのかもしれない。

最近サンデル教授の『ハーバード白熱教室』を読みなおした。

ここには、現代社会で正義を語る上で、基本的人権という概念理解がいかに大切で、キーになるかが述べられていて面白い。

サンデル教授は、西洋で整えられた基本的人権の尊重という概念に、カントがいかに多大な影響を与えているのかを、学生との討論の中で理解させようとする。

理性が道徳法則を作り、その道徳法則に自発的に従うことを『自律』とする。その自律能力を持った自由な主体が『人格』であり、道徳的な自律を人間は持てるからこそ尊厳があるのだと、カントは説く。そして、その基本的人権の考え方は、現代の私たちが「正義」について議論する際に切っても切れない原理原則となっている。

基本的人権は決してま新しい考え方ではない。たとえば人を殺すのは是か非か、貧しいからといって隣人のものを奪うのは是か非か、といった普遍的な問題に対して私たちが古代から有していたはずの理性を使って普遍的な解答を導き出すことができるものだと、サンデル教授は教える。

であるならば、過去にあったことだから当時の価値体系に沿った形のみでしか価値判断を行なってはいけない、ということにはならない。なぜなら基本的人権は人類普遍の原理なのだから。

実際のところ、日本が戦時中に行なった様々な諸問題には現代的価値観からみれば、過ちが多くあったことは否めない。それに、現在は過去の延長上にあるのだから、現在の諸問題――労働基準法違反の蔓延だとか、デリヘル業者の売春行為の黙認だとか、拘置所という代用監獄の存在だとか――を解決することにもつながるだろう。

……というところが、たぶん現代的価値観で過去の事例を断罪し、国家に罪を認めさせようとする人々の考えているところなのだろう。サンデル教授の本を読みながら、そんなことをつらつらと考えたのだが、さて、理想を追求するのは結構なのだけれども、理想を追求した結果、逆に人々が不幸になるケースが世界にたくさんあるのも確かだということも、また思った。

原理原則を推し進めていこうとすれば、世の中にはそれと反する習慣が無数にあり、その全てと衝突するハメになる。それを全て破壊した結果、社会自体が機能しなくなってしまい、大勢の人々が不幸になったのならば本末転倒だ。

そもそも基本的人権自体、理性を人類全員が持つ、というフィクションをもとに成立している考え方で、事実と異なっている。近年の脳の研究では、人間の脳が大変多様性に飛んでおり、生まれつき倫理観や理性がまったく欠如している人間が大勢いて、それでいながら問題なく社会生活を送っていることもわかっている。

事実と異なる概念が元になっているのだから、基本的人権を元にしてそれと反する価値観・慣習をすべて排除した社会は、たぶん生きにくいものとなる。

とはいえ、世界が原理原則をもとに動いてることは明らかで、日本はこの原理原則と衝突しない形でゆるやかに少しずつ慣習を変え、価値観を変え、世界と共同歩調を取っていくしかあるまい。しんどいことだが。

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