2013年5月19日日曜日

みんな嘘つき 下

今から10年以上も前に、ロバート・キヨサキという人物が書いた、
『金持ち父さん 貧乏父さん』
という本が話題になった。

それまで一生懸命働けば終身雇用で会社が面倒を見てくれた時代が終わり、リストラが当たり前になった時代に、人々は何かの指標を見つけようとしていた。

そのときに、教育者としてまじめに働いていたにも関わらず、解雇された著者の父「貧乏父さん」と、起業家として大成功を収めた友人の父「金持ち父さん」とを対比させて、従業員ではダメだ、ビジネスオーナーにならないとダメだ、と説くこの本はベストセラーとなった。

ネットワークビジネスなどをやっているヤカラの間では、未だにこの本がバイブルのような役目を果たしているらしい。新入社員となって初めて社会の荒波に飲まれた学生相手に、
「今のままで10年後、幸せになっている自分を想像できる?」
などと言って、この本を読ませて、自分たちのネットワークビジネスに勧誘するという手口が横行しているので、要注意だ。

それだけの説得力は、ある。世の中のサラリーマンたちの生き方を否定して、その生き方自体が不幸の源泉だと指摘して、そしてよりよい生き方として「ビジネスの所有者」となることを説く著者の論理は明快だ。ベストセラーとなり、来日した著者が、当時ニュースキャスターを務めていた筑紫哲也氏と会談しているのを見たこともあった。

ところが、そのロバート・キヨサキのエピソードが、すべて作り話だというのはご存知だろうか?

彼の通訳をしていた日本人スタッフが暴露、それも、尊敬の念を込めて暴露している。

著者の河本氏によれば、ロバート・キヨサキの父親は決して貧乏でなんでもなかったという。それに、金持ち父さんに当たる父親もいなかった、というのだ。

そして、ロバート・キヨサキ自身、冒頭の本を出版するまでは、金持ちでもなんでもなかったというのが事実のようだ。

でも今はほんものの金持ちだ。どうやって金持ちになったのか? それは、冒頭の本の中で紹介されていた、
「キャッシュフローゲーム」
と呼ばれるボードゲームと、それを使ったセミナー、通信教育などを組み合わせた販売が辺りにあたって、大金持ちになったのだという。つまり、本がベストセラーとなり、関連商品が売れたから金持ちになったのであって、金持ちになって『金持ち父さん 貧乏父さん』を書いたわけではないのだ。言わば、原因と結果がアベコベなのだ。

本来ならば、投資教育プログラムの販促活動として出版されたのが『金持ち父さん 貧乏父さん』なのであって、それは一種の寓話であり、フィクションであり、ドキュメンタリーではなかった。ところが、それがベストセラーとなった。今でもロバート・キヨサキはファイナンスの専門家として、いろいろな媒体に連載を有している。

出版業界というのは、そういうものだ。日本だけではなく、アメリカでもそうなのだから、アメリカの成功哲学、自己啓発の類も、あまり当てにならないということだろう。

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