2013年1月3日木曜日

歌謡界の現状

昨年末の12月30日、第54回日本レコード大賞の審査会が東京都渋谷区の新国立劇場で開かれた結果、レコード大賞はAKB48の「真夏のSounds good!」に決定しました。

ところが、その発表の直前に、日本作曲家協会会長であり、日本レコード大賞制定委員長でもある服部克久が挨拶の中で、
「これが日本の音楽業界の現状です。 楽しんでいただけましたでしょうか」
という発言をしたため、その余波がいまだ尾を引いているようです。

★ 「これが日本の現状です」レコ大の服部克久氏の意味深発言がネットで話題に

ただ、その言葉を書き起こしてみますと、そこまで意味深な発言には聞こえませんでした。アナウンサーから総評を求められた服部氏の発言とは、
「はい、えー、歌謡曲からヒップホップまで、本当に幅広い音楽を聞いていただいたと思います。えー、これが今の日本の歌謡界の現状で、今日3時間聴いていただいて、すっかりその現状が把握できたと思います。お楽しみいただけたでしょうか?」
というものです。

果たして批判が込められているでしょうか? 「現状」という言葉には、「現状維持」「現状を打破する」というように、より良いものへと進化する前の段階の意味で使われることが多いために、何か否定的な意味合いを嗅ぎとった方々が多いようです。しかし、少なくとも原義的には「現在の状態」を示すだけの言葉なので、どのような意味が込められているのかは、文脈から判断しなければなりません。

文脈の流れからいえば、服部氏に不満、批判といった意図はなかったように思います。そもそも、レコード大賞の創設者の息子が、この企画の一番の肝の部分で、賞を授与する相手をくさす言葉を吐くわけがありません。

ただ、服部氏自身にその意図がなかったとしても、大勢の視聴者にとっては作られた韓流ブームと同様、握手券と抱き合わせのAKB商法の欺瞞に鬱憤が溜まり、そろそろ我慢の臨界点が近づいていたために、服部氏の意図とは別に、言葉が独り歩きすることとなったのではないでしょうか。


……そりゃね、昨年一年間のオリコン年間シングル売上ランキングが、
***1位 : 182.0万枚 ... AKB48 「真夏のSounds good !」
***2位 : 143.7万枚 ... AKB48 「GIVE ME FIVE!」
***3位 : 130.3万枚 ... AKB48 「ギンガムチェック」
***4位 : 121.5万枚 ... AKB48 「UZA」
***5位 : 107.3万枚 ... AKB48 「永遠プレッシャー」
***6位 : *64.9万枚 ... 嵐 「ワイルド アット ハート」
***7位 : *62.0万枚 ... 嵐 「Face Down」
***8位 : *59.3万枚 ... SKE48 「片想いFinally」
***9位 : *58.8万枚 ... SKE48 「キスだって左利き」
**10位 : *58.2万枚 ... SKE48 「アイシテラブル!」
**11位 : *55.9万枚 ... 嵐 「Your Eyes」
**12位 : *44.9万枚 ... NMB48 「ナギイチ」
**13位 : *39.1万枚 ... NMB48 「ヴァージニティー」
**14位 : *37.6万枚 ... NMB48 「純情U-19」
**15位 : *37.5万枚 ... エイトレンジャー 「ER」
**16位 : *35.5万枚 ... Kis-My-Ft2 「WANNA BEEEE!!!/Shake It Up」
**17位 : *35.3万枚 ... NMB48 「北川謙二」
**18位 : *32.2万枚 ... Kis-My-Ft2 「We never give up!」
**19位 : *32.0万枚 ... 関ジャニ∞ 「愛でした。」
**20位 : *30.5万枚 ... NEWS 「チャンカパーナ」 
のように、ほぼAKBやSKEで独占され、しかもそれが歌自身のパワーでないことを誰もが知っていたら、誰でも違和感を抱くはずです。

AKB48がいなかったら、本来のCD売上ランキングは惨憺たるものだったのかもしれません。しかし、握手券との抱き合わせ商法という、歌とは無関係な部分で売上枚数を増やした結果をもとにしたランキングは、いわば歪んだ統計です。人々が一年を歌とともに振り返ろうとしても、AKBの壁に阻まれて展望が効かなくなっている「現状」がここにあります。これは、流行歌が時代を映す鏡だと考える人々、歌自身を愛する人々にとっては大変悲しい事態です。

かつて阿久悠という流行作詞家がいました。彼が流行歌を生み出す秘訣を問われた時に、こう答えています。
「今、なにか欲しいと言っている人に対して、いちばん早いかたちで流して、感動なり感傷、感激がこもってしまわないで、リレーできる種類のものが歌なんですね」
つまり、現代という時代の中で人々の感じる渇望を、己自身の価値判断を込めず、その人の感動も込めずに、伝えようとする中で、流行歌が生まれるのです。それが時代を映します。AKB48の歌の中に、時代の渇望が見いだせるのでしょうか?

……『会いたかった』は名作だと思いますけどね。


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