2012年8月16日木曜日

人体実験のアルバイト あるいは治験体験談 ⑥

(昨日の続きです)



(治験、まだやってるんだろなぁ)
と思いながら敷地をのぞくと、ちょうどその時説明会をおこなっていたようで、施設の入りぐりには
「○○説明会はこちら」
という張り紙が張られていたのです。雰囲気は一年前のままでした。

ついついなつかしくなり、ふらふらと中に入って、
「こんにちは。以前ここで治験に参加したことがある者です。今でも募集されていますか?」

と尋ねたのです。

すると、受付の女性が、
「○○君ね。いらっしゃい」

・・・・・・一年前にたった一度、治験に参加しただけの私の名前を、彼女は覚えていました。
「え? どうして覚えているんですか?」
「そりゃ、ここの治験に参加した生徒さんの名前くらい、全員覚えてますよ。それが仕事だもん」
と彼女は言うのです。

うそ?!

その施設では、数種類の治験が平行して行われていました。一ヶ月にその施設を訪れる治験体は、100名はくだらないはずです。

年間で少なくとも1000名は参加するその施設の参加者を、この受付の看護婦らしき人は、なぜすべて覚えているんだろ?

まあ、そういう異常記憶者も世の中にはいるしなぁ、と思いながら、彼女から受け取った、
「今後二ヶ月以内にある治験リスト」
の一覧表を眺めていたところ、奥から医者が出てきました。
「やあ、○○さん。久しぶりです」
と声をかけられたのです。

なぜ?

私は特に、目立つ治験体ではなかったはずです。ほとんど会話もせず、周りとのトラブルはなく、一回だけ、夜更かしをして他の治験ボランティアから注意を受けただけのはず。ほかに目立つ行動としては、治験の前後にあった心理テストを受けることを拒否しただけなのに。

なぜ彼らは、私の名前、一年後になっても覚えていたのでしょう? 気味が悪くてたまりません。

治験は製薬会社から大変な予算をつけられるといいます。そのためそこで働いている看護師や医師は、日本の中でも際立って優秀な方々。年間で出会う千人のボランティアの名前くらい、簡単に覚えられるのかもしれません。

いや、もしかしたらこういうことだってあるかもしれません。
彼らは治験ボランティアの中から無作為に血液を選び、治験中に手に入れた大量の血液を使って、実験を繰り返しているとか。たまたま私の血液がそれに選ばれたために、彼らにとって私は「一年前のボランティア」ではなく、今でも身近な「実験体」だったとか……。



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